ニッポン維新(110)改革のためにー10

政権交代を仕組んだ小沢一郎氏と同様に小沢氏の後を継いで民主党代表になった鳩山由起夫氏にも「政治とカネ」の問題が起きました。実母から5年間で9億円の資金提供を受けていたのに、政治資金収支報告書では故人を含む多数の個人献金であるかのように装っていたと言うのです。

資産家である実母は息子の政治活動を支えてあげたかったのでしょう、毎月多額の献金を行いました。ところが日本の政治資金規正法には献金額の上限があり、実母の資金はそれを超えていたのです。そのため経理担当秘書が多数の他人名義を使って収支報告書に記載した訳です。

これが政治資金であれば政治資金規正法違反になり、贈与だと贈与税を払っていない鳩山氏は脱税したことになります。鳩山氏は受け取った資金を裏金ではなく、政治活動に使う表の金として処理しましたから、この場合は政治資金規正法違反です。結局、鳩山氏は何も知らなかったとして担当した秘書が政治資金規正法違反で起訴されました。

この問題で、かつて「ユートピア政治研究会」を作り、年間1億円あれば政治活動は可能だと主張していた鳩山氏が、現実には多額の政治資金を必要としていた事が分かります。綺麗事を言っていても政治家は務まらないのです。

メディアはこの問題を厳しく追及しましたが、大方の国民の受け止め方は、他人から違法な献金を受けたのではなく、資産家の母親が支援した話として同情的な声も聞かれました。問題は日本では政治献金に金額の規制があることです。私の知る限り欧米には金額の規制などありません。

政治資金規正法の「正」の字が「制」でないことの意味が日本では失われているのです。昭和23年に出来た政治資金規正法はアメリカをモデルに作られましたから、そもそもは金額の規制をしていませんでした。政治献金の入りと出を明らかにすることが目的の法律でした。ところが「クリーン」を売り物に登場した三木内閣が1975年に法律を改正し、欧米にはない金額の規制に踏み込んだのです。

ロッキード事件が起こると、それまで政治献金を支えてきた大企業が献金を控えるようになり、新興企業や個人による献金が前面に出てくるようになりました。そうなると、クリーンという建前とは裏腹に、献金の実態が地下に潜るようになり、裏金が横行するようになりました。日本では企業団体献金が悪とされ、個人献金がもてはやされますが、個人ほど顔の見えないものはありません。

ともかく鳩山氏の献金問題は秘書が訴追され、本人が責任を取る話にはなりませんでした。それはこの情報をマスコミにリークした主体が、鳩山氏のスキャンダルをつつき、鳩山氏を追い込むことで、そこから逃れるために小沢氏を切るようにし向け、民主党を分断する工作の一環だと私には見えました。

「政治とカネ」のスキャンダルは最初マスコミが暴き、それを見て義憤を感じた市民団体が捜査機関に告発し、それから捜査が始まるという流れが普通です。いかにも国民の側から発覚して官が動き始めるように見えますが、私の経験では実態は全く違います。

マスコミにスキャンダルを暴く力はなく官の側からリークがあるのです。官僚が記者に直接ヒントを与える場合もあれば、官の手先である「タレコミ屋」がネタを持ち込む場合もあります。それがあって初めてマスコミが動くのです。つまり官の側には常に政治家のスキャンダルを調査・分析している部隊があるのです。

警察、公安調査庁、内閣調査室などは、本来は外国スパイや反体制勢力の監視、摘発を行う機関ですが、冷戦が終わり左翼運動が沈静化すると、監視すべき対象がなくなりました。そこで政権交代が現実味を帯び始めた頃から民主党のスキャンダル収集に力を入れ出したのです。

公安調査庁OBの菅沼光弘氏によると、政権交代が実現した時に内閣調査室では資料を破棄する作業が延々行われたと言います。自分たちのトップが民主党に代わったため、政権交代を阻止するために収集した民主党政治家のスキャンダル情報が見つかってはまずいと考えたからだそうです。

アメリカでもFBIが大統領や有力政治家の電話を盗聴した例はありますが、その内容がマスコミにリークされたり、それで政治家の足を引っ張る事はまずありません。捜査機関が政治を混乱させることは民主主義に反し、国民の利益を損ねと考えるからです。しかしわが国では政権交代を阻止する側に官の勢力がいたのです。(続く)