復興のための田中康夫ビジョン
復興国債100兆円! 被災者1人10万円の支度支援金(BI)を即時支給!真の「救国内閣」で日本再興を! そして石原慎太郎を閣僚に!?
初動3日の失敗が招いた最悪状況!
震災発生から1ヶ月、被災者支援も原発対処も、後手後手の迷走を政府は繰り返すばかりだ。
「兵站=ロジスティックスが機能しなかった太平洋戦争末期と似ている」と評するのが、被災地で支援活動を行う田中康夫氏。特に問題視するのは、福島第一原発から半径20~30km圏に出された“屋内待避指示”。家から出るな。食料・物資は自己調達せよと矛盾に充ちたムチを住民は打たれた。
南相馬市に現地入りした田中氏は「硫黄島状態の“平成の棄民”を見捨てるな」と発言。慌てた政府は地震発生2週間後の3月25日、当該エリア住民に対して“自主避難要請”するが、これも無責任きわまりないものだった。
「指示や命令でなく、なぜ“要請”だったのか? 『避難指示だと住民の移動に多額の費用を要する』、『自主避難なら国庫支出が少なくて済む』と政府関係者は“事業仕分け”を行ったのです」。
その後、20km圏外にも“計画的避難区域”を拡大設定するが、枝野幸男官房長官は4月13日の会見で「格納容器が(水素爆発で)全面的に破壊され、より大量の放射性物質が周囲に飛んでも当初の避難指示区域(20km圏内)でよいと認識している」と答えている。「計画的避難区域」とは何なのか? 「国民生活第一」とは、基礎自治体に責任を丸投げする“地域主権”だったのか?
「NHKラジオ第2を各県単位で3日間24時間、ライフライン放送させよ。自衛隊ヘリから各集落に毛布、飲食料、ラジオのパックを投下せよ。と田中氏は地震発生直後、官邸に提言している。だが、政府は災害対策基本法すら発動しなかった。「初動3日間の対応をことごとく間違えた、その歪みが今の迷走に繫がっています」。
どうすれば震災を乗り越え、日本を再生できるのか。これまでの政治の常識をくつがえす9つのビジョンを、田中氏が緊急提言する。
政治はどう動くべきか?
提言1 老壮青「救国内閣」で真の日本再興を!
「最悪の事態を最悪の内閣で迎えてしまった」と嘆いても始まらない。党派を超えた適材適所の“救国内閣”を震災前から提唱してきた田中氏は、内閣参与の登用や復興構想会議の創設で“船頭多くして船山に上る”現状を打破するには、シンプルで大胆な指揮系統を構築するしかないと断言する。
大連立は自公両党が拒否して消え去った。国民も延命ではないかと呆れ返った。この国難の中で、揚げ足取りの批判など、誰も考えない。だが、あの人が首相ではと、二の足を踏んでいる。「与党の一員でありながら、暴走する“仙菅ヤマト内閣”だと述べてきたのが私です。でも、当の本人が辞める気ゼロなんだから」と田中氏。
民主党内でも“反菅集団”は党外勢力と共闘して倒幕運動を引き起こす構えを見せる。だが、その先の確たる海図は不透明だ。「ならば現実的対応で、中曽根康弘内閣に於ける後藤田正晴氏的な“逆命利君”を送り込むしかないでしょ。その最適任者が、連立政権を組む国民新党の亀井静香代表」。官房副長官に返り咲いた仙谷由人氏が、その役目ではなかったのか?
「勝谷誠彦さんが見抜いています。連合赤軍みたいに冷酷な仙谷さんは寝首をかく刺客。彼が利権分配的大連立を野党の守旧派と画策していたんだと。頭は菅、その下で構想力に富む亀井が全権掌握して霞ヶ関にグリップを利かせ、全閣僚も彼の指示に従え。と菅・亀井両氏が超法規的方針を合同会見で宣言する。亀井とは盟友で、欧州の1国以上の権限を持つ石原慎太郎氏も東京都知事として、菅との恩讐を超えて“救国内閣”で閣僚を兼務するのです。これは法律上も可能。唯一の課題は、自尊心の高い宰相が、その国民益としての価値を理解するかどうかですね」
✻国民不在の「オトモダチ」内閣では日本丸は暗礁に乗り上げたまま。今こそ、哲学と覚悟を持った英知を結集せよ。
提言2 復興増税なんて日本破滅への道!
開闢(かいびゃく)以来の国難を乗り切るには、“新しい方程式”を編み出す指導者が不可欠だと田中氏は指摘する。「与謝野馨さんは財務省の方程式で演算するのは得意だけど、自分で方程式を構築する能力はない。だから、従来の方程式を用いて復興増税と言い出しました。それに同調する政治家も、国民に負担を強いる天動説から、自ら踏み出す地動説へと発想転換出来ない旧人類ですよ」。
だから国会議員の歳費も半年間3割カットして自ら身を切ったのですね? 「違います。歳費削減で捻出されるのは僅か20億円。それで復興増税だなんて“説教強盗”です。増税で景気浮揚した国家は古今東西、何処にも存在せず、と震災前から本会議や予算委員会で述べてきました。まして、景気が落ち込む中で国民にも企業にも増税を強いたら、日本はデフレスパイラルどころか奈落の底へ真っ逆さまです」。
でも「財源」が・・・。「財務省と御用学者が造り出した『財源』という行政用語を記者クラブが安易に垂れ流して、国民は集団催眠術に掛かってるんです。あの竹中平蔵氏ですら、こんな時に増税は自殺行為だと言い切ってますよ」。
提言3 公益事業省を創設し東電を吸収せよ!
大震災で最大の被害国となった日本。その日本は世界から今、放射能で最大の加害国だと見られる深刻な事態に陥ってしまった。
4月に入ってからも福島第1原発付近の海水から基準値の750万倍もの高濃度の放射性物質が検出され、「放出量がチェルノブイリに匹敵する、若しくは超えるかも知れない懸念を持っている」と東京電力の原子力・立地本部長代理も述べている。ところが、その翌日の13日に清水正孝社長は「少しずつ安定に向かっている」と会見。日本の信用は国際社会で失墜している。
「東電社長で電気事業連合会会長だった5年前、柏崎刈羽、福島第2で連続発生の重大事故を公表せず、データ改竄も黙認した勝俣恒久取締役会長も、メディアの前に姿を現したのは1度だけですね。『現時点では』がお得意な枝野官房長官も、国際評価尺度をレベル7に引き上げた12日、『チェルノブイリと違って直接的な健康被害は出ていない』と会見しました。5年、10年後の妊婦や子供の被害は想定外では、洞察力に欠けます」。
そして、「計画停電」の後は電気料金引き上げを画策する経済産業省。だが、安易な国営化は責任の所在を曖昧にし、血税投入を正当化する。地域独占に胡座をかき、利用者軽視の電力会社は、通信、航空等の競争導入経験が豊富な分野を包含した公益事業省を創設して抜本的体制刷新を、と経済ジャーナリストの町田徹氏は指摘する。
✻東電提供の白煙が立ち上がる3月15日の福島第一原発の写真
提言4 日銀直接引受国債を100兆円発行せよ!
震災被害額は16~25兆円と3月末に政府は発表。だが、これは損壊した道路や設備などの直接的被害額に過ぎない。生産減等の経済活動への影響額は今年度だけでも1兆2500億~2兆7500億円。と報じる記者クラブメディアは、「今回の復興予算が阪神・淡路大震災を大幅に上回るのは確実で、巨額の財源捻出が最大の課題だが、16年前の当時と比べて国債残高は既に3倍以上で、国債増発による多額の財源調達は容易でない」と用意周到に財務省の配布資料をコピー&ペーストして、「増税」不可避の集団催眠術を大合唱。
「繰り返すけど、あの竹中平蔵氏ですら増税は愚論と警告してるんだ(苦笑)。じゃあ、どうするか。讀賣新聞の渡邉恒雄主筆も以前から提唱している無利子非課税国債の創設と、日銀直接引受で復興国債を100 兆円規模で発行するのが賢明だと思うよ。前者は、眠っていたタンス預金が動き出す。無利子だけど相続税を免除するからね。後者は、国が日銀に利息を支払うけど、その利息は全額、国庫納付金として戻ってくる。国民に負担を与えずに、『財源』を生み出せる新しい方程式でしょ」。
「『景気は空気』。震災前から沈滞していた日本経済を再起動するには、こうした実体のある気宇壮大さが必要。これぞ積極財政の高橋是清や帝都復興院の後藤新平にも通じる政治主導だよ。今回の第1次補正予算4兆円は、官僚主導で各省庁の取り分を継ぎ接ぎした、出来の宜しくない“パッチワーク”。その『財源』とした子ども手当の見直しや年金国庫負担率の引き下げも第2次補正では使えない。じゃあ、臨時増税やむなしとなって、それでも足りずに今度は恒久増税。目も当てられない日本沈没だよ」。
被災地をどう復興すべきか?
提言5 新都市建設と集落再生の両立を!
16年前の大震災は、家族と住居を失った被災者も、神戸市長田区のケミカルシューズ工場勤務者以外の大半は大阪を始めとする職場が無事だった。今回は違う。津波襲来で宮城、岩手の三陸地域も、原発汚染で福島の浜通りも、農林水産業だけでなく商工業も復興には長い年月を必要とするだろう。
「被災地での初期対応は、寒さを防ぎ・空腹を満たし・夜露を避ける衣食住。その為の物資・食料・避難所です。でも、中長期的には『意職住』。職場と住居が確保されて初めて、人間は生きる意欲を取り戻します。それこそは哲学と覚悟を持った指導者の下に国家が指針を示さねばなりません」。
田中氏は北上高地、阿武隈高地、那須高原に“職住近接の新しい居住空間”建設を提示する。それは背広姿へと戻った菅首相が「全国民の英知を結集し、未来の夢を先取りするエコタウン建設を」と4月1日に述べ、逆に国民は脱力を感じた、実体なきハコモノ公共事業とは似て非なる内容だ。
「ルシオ・コスタ、オスカー・ニーマイヤーの“偉才”建築家を起用して1960年、標高1100mの高地に出現したブラジリアは僅か27年後には世界遺産に登録されました。安藤忠雄、磯崎新の両氏に最後の御奉公を頂きましょう。甚大な被害を受けた海岸に30mの堤防を建造して人々を戻すのが“新しい公共”ではないのです。平坦な海岸沿いの居住地は湿地帯として再生し、ラムサール条約登録を目指す。リアス式海岸沿いの漁村も、居住地は高台に設け、エレベーターで結ぶ。そして、船舶が建造物に乗り上げた石巻や気仙沼の一廓は、世界遺産として保全すべきです。被災者を傷付けるなと情緒的批判も有るでしょうが、津波の猛威を後世に伝える立派な歴史学習の場として、世界中から人々が訪れる史跡となる筈です」。
✻湿地帯として再生しラムサール条約登録を
自然エネルギーへの転換は本当に可能?
「自然エネルギーは原子力に勝てないのでは?」とは多くの人が持つ素朴な疑問だろう。日本が官民一体で展開した途上国への原発売り込み作戦に期待を持った人もいたはず。自然エネルギー政策を数多く提言する飯田哲也氏は、この風潮を一貫して批判してきた。
「日本が“原子力妄想”に浸っていた21世紀初頭、世界の現実は変わりました。自然エネルギーがIT革命に続く“第4の革命”として驚異的な成長を遂げたのです」
ドイツの電力に占める自然エネルギー比率は10年で10%も増加。世界全体でも、`09年には前年比で太陽光6割増、風力4割増と、爆発的に市場を拡大させている。発電コストも急低下し、すでに太陽光と原発は逆転したとの報告も。
「自然エネルギーへの投融資はリーマンショック後も止まらず、`20年には100兆円を越える勢い。このままでは日本は蚊帳の外です」
もはや震災前には戻れない日本。今から自然エネルギーに活路を見出せるのか?
「自然エネルギーの普及は原発と違って短期間で実現できるので、復興の経済刺激策として極めて有効です。分散型技術は普及すればするほど性能が上がり、安くなる。これからの10年が勝負です」
飯田氏は「3月11日は、日本にとって明治維新、太平洋戦争敗戦に次ぐ“第3のリセット”の日となった」と語る。エネルギー政策をはじめとする分野で、今こそ現実を直視し古いパラダイムから脱却しなくてはならない。
飯田哲也氏・・・1959年、山口県生まれ。NPO法人環境エネルギー政策研究所所長。自然エネルギー政策の提言などで国内外で活躍している
提言6 新エネルギー産業振興で地域密着型雇用の創出を!
今後、原発の縮小が避けられない地震大国の日本は地熱、風力、用水路等のマイクロ水力発電に加え、太陽電池=太陽光発電を“国策”とし、地域密着型の雇用を目指せと田中氏は提言する。
「70年代には世界一の開発技術力と市場占有率を誇っていた太陽電池を、何故か日本政府は支援せず、現在は中国やドイツの後塵を拝しています。ならば逆転の発想で、新築・既存のビルも家屋も全国で太陽光パネル設置を建築基準法で義務付け、被災地でのシャープや三洋電機の事業所展開を全面支援し、地元雇用を創出するのです。首相と経団連、連合の両会長が共同会見して具体的な採用人数も発表したなら、勇気と希望を与えます。同時に既存の原発は15年~20年で廃炉とし、代替エネルギーの供給計画を国民に示しましょう。莫大な国費を要する廃炉も、反面教師としてのビジネス需要です」。
✻太陽光発電の全戸、全事業所義務付けを
提言7 支度支援金=BIを1人10万円即時支給!
日本赤十字社やマスメディアに届いた義捐金は、「公平・平等」を掲げる配分委員会が半年近くも議論を重ね、被災者の下に辿り着く。日本財団の笹川陽平氏、清水國明氏、田中氏も以前から指摘していたが、抜本的改善には至っていない。それならばと今回の震災では、具体的支援活動を行うNPOやヴォランティアに直接、支援金を手渡す国民も増えている。
「全てを失った被災者にとっては、半年後よりも震災直後の現金支給に意味が有るんだ。それも、ベーシック・インカム=BIの発想で、世帯単位でなく個人単位で1人10万円の支度支援金を政府が即時支給して、自律のイニシャルコスト=初期費用として活用頂く。だって2人家族と5人家族じゃ、隣県へ避難するにも費用が違うでしょ。僕と亀井氏が1次補正で要望したら無体な話と難色を示した政権幹部も、予算確定後の15日になってアリですねと。遅いんだよね。災害時はスピードが第1なのに」。
提言8 無利子融資で飲食店、中小企業を護れ!
炊き出しの行列に黙々と並び、有り難うと感謝の言葉を述べる姿は、世界に誇るべき日本人の美徳。なのに、奇妙な自粛ムードに包まれる日本の空気は変だよね?
「その通り。悲しかったり辛い時には酒を飲んで気分転換するのに、どうして避難所ではアルコール厳禁なの? 3日に1回は350ml缶ビールで節度ある癒しの時間を被災者に味わって頂いてこそ、『美しい日本の私』。被災地以外の我々は、飲み会もイヴェントも自粛なんて即刻返上して、景気浮揚に貢献すべきだよ。飲食店を含む中小零細企業の倒産を防ぐ上でも、5年間返済猶予の無利子融資を実施する予算化を、と亀井静香代表と共に岡田克也幹事長に提言したら、キョトンとしてたよ。大規模小売店舗の御子息にはピンと来なかったのかな」。
提言9 地域分散型のコミュニティ再生を目指せ!
16年前の早朝に自宅で家族と共に激震に遭遇したから、阪神間の人々は沈着に助け合った、と先週号の連載で記した田中氏は、午後2時46分過ぎの今回も、三陸から常磐に掛けての職住近接の被災地の集落には地域の絆、家族の絆が根付いていて、だから被災者は能動的に機動的に助け合い、今猶、劣悪な環境に留め置かれているにも拘らず、支援に訪れた側が歯痒くなる程に無欲で純粋なのだと語る。
「日本の村落共同体を象徴する駐在所、消防団、郵便局が機能していたのですね。それらに感じられる人間の体温こそ、日本の智慧なのです。税金を投じて建設されるであろう新都市にも、その温もりが根付かなければ、あっと言う間に荒涼とした犯罪スラム都市になってしまうでしょう。その意味でも、遠くに集団疎開を余儀なくされた人々が戻る仮設住宅は、被災した集落や市町村に出来る限り隣接する場所に建設されるのが望ましいのです。気仙沼市も南三陸町も、トンネルを抜けて内陸側へ僅か10分程度の自治体は被害も皆無に近く、休耕田が点在しています。こうした空間にきめ細かく仮設住宅を建設し、地域分散型のコミュニティ再生を果たせるか否か、政府や行政の智性・勘性・温性が問われています」。
✻政治“不”主導が続き、被災者の絶望は深まる一方
取材・文/尾原宏之 撮影/山形健司 写真提供/産経新聞社 時事通信社 図版作成/ミューズグラフィック